142_main

萩原 義雄 記

小学館『日本国語大辞典』第二版に「きょうだいしまい【兄弟姉妹】」は、見出し語としては未記載とする。但し、全文語例として八十四例を収載し、「血縁関係」「骨肉同朋」「代襲相続」「一母同胞(ひとつおもはらから)」「傍系血族」「行合(ゆきあい)兄弟」と云った見出し語の意味説明に用いられている。ところが、逆に「姉妹兄弟」とは一例も用いられていない。では、各々「兄弟」「姉妹」と二字熟語にしたときどうかと云うと、【兄弟】の読み方を①あにおと。②あにおとと。③キョウダイ。④キョウテイ。⑤ケイテイ。⑥このかみおとと。⑦ヒンデイ。と云った七種類が日本語のなかで用いられてきたということが判る。ただし、現代の日本語話者は、このなかで、通常は③の「キョウダイ」(呉音読み)または、「あにおとうと」とを用いてきている。他の④「キョウテイ」は呉音+漢音混種読み、⑤「ケイテイ」は漢音読みであって、この字音読みが今の「キョウダイ」に落ち着くと同時に、男女両用に用いてきたことは云うに俟たない。実際、室町時代の謡曲『玉井』〔一五一六(永正一三)年頃〕に、「豊玉姫御兄弟は御出でなされ」とある。ところが「シマイ【姉妹】」も女のきょうだいの意味でちゃんと存在する。古くは『続日本紀』〔七二一(養老五)年〕七月己酉に、「始令文武百官率妻女姉妹、会於六月十二月晦大祓之処」と見え、今も「同じ系統に属し、または類似点を多く持った二つ、または二つ以上のもの」を云う「姉妹編」「姉妹校」「姉妹都市」などと立派に看板を貼っているではないか。実に驚愕する。そして、⑦「ヒンデイ」の読みだが、これは唐宋音読み。意味も「禅宗で、法の兄弟、兄弟弟子を云う。『正法眼蔵』〔一二三一(寛喜三)〜五三年〕十方の卷に、「先師これを泥弾子として兄弟を打著す」と記載し、室町時代の古辞書である『温故知新書』〔一四八四(文明一六)年〕に、「兄弟 ヒンテイ」と訓みも収載するのである。ある意味での特殊さがここには存在する。

本学では、「禅ブランディング」事業が各々の柱構成に従って淡々と推し進みつつある。この機会に私たちも禅語読みに親しむのも「此れたのしからずや」である。