萩原 義雄 記

六月三日全国公開された映画「花戦さ」を観た。原作は鬼塚忠(おにづかただし)『花戦(はないく)さ』〔角川文庫刊〕、脚本を森下佳子、監督を篠原哲雄で制作された。主人公池坊専好に野村萬斎が演じる。いけばなのなかで「大砂物(おほすなもの)」を天下人の目前で見せることになるは紫雲山頂法寺(しうんさんちようほうじ)の六角さんこと六角堂(聖德太子が四天王寺の建材を求めて山城国に来た際に、此の地で沐浴をされ、持仏をおいた。如意輪観世音菩薩(によいりんかんぜおんぼさつ)、淨土真宗を開く親鸞も百日参籠した地。此の地に読経し花をしつらえる。柾、柳の一枝、桔梗、撫子、著莪に潜んでいた命の煌(きら)めきが輝きはじめる。此の世に無駄な葉や枝はない、美しさはその奥深さに隠れている)花をしつらえる池坊専好(いけのぼうせんこう)。初夏にしつらえる花は白と赤の木槿(むくげ)が立花(りつか)に相応しい。仏前供花の瞬間である。「花には必ず心が現れる」「花と対話し、花を活かす」ことで成し得る、それが「大砂物」という花の世界となっていく。

時同じくして、日曜深夜のラジオ放送で、女優吉永小百合さんが「今晩は吉永小百合です」にて丁度「放送六〇〇回記念、十二年間の思い出についてのトーク」中、放送現場にも常日頃季節の花がしつらえていたことを話されていていた。しつらえ人はこの局番の担当者だという。

本学にも室内にさりげなく生けた花がある。このさりげない花が、日々の学びの場である教室にもしつらえることができたら……と思うのだ。まさに、花は心の鏡として、己が心の持ちようひとつで花も生き生きともするし、色を失ったりもする。作中、御屋形さま信長が秀吉に語った「己の価値を磨け。そうしたら、戦さに負けても人としては負けん」「猿よ。茶と花を、人の心を、大事にせえよ。そういう武将になれ」、この一言は、現今の私たちにも通ずる一言ではなかったかと時空を超えて、人が人として心打つという思いが通うときでもあるまいか。

初夏のしつらえ花「あじさい【紫陽花】」

初夏のしつらえ花「あじさい【紫陽花】」

立花正風体「蓮花」

立花正風体「蓮花」

 
「今晩は吉永小百合です」 https://www.tbsradio.jp/159525