萩原 義雄 記

「芙蓉」は、朝鮮アサガオと呼称し、通常は、音で「フヨウ」と読む。木の花でこの時季、彼方此方のお庭で咲き誇っている。室町時代の『中華若木詩抄』巻中・李義山「槿花」に、

槿花。和ニハ。アサガホト云也。又ハ木槿花(ムクゲ)トモ云フ。但歌道ニ至テハ。不評之。朝栄暮落ニヨリ。アサガホト云乎。牽牛花ガアサガホ也。槿花ハ。別也。牽牛花ノ賛ナドニモ。槿花ノコトヲ作ルハ。誤リ乎。
 
とある。「槿花」として「あさがお」と呼称していた。だが、次なる「むくげ」という呼称でもあったという。和名「あさがほ」も「むくげ」も共通する点は、「朝栄暮落」ということにある。

も一つの、入谷アサガオまつりなどで有名となった草の花である「朝顔」があり、八月十一日は千利休が時の権力者秀吉を招き催したと言う「朝顔茶会」。所謂、利休が一輪だけの朝顔で秀吉を驚かせた趣向譚(利休の庭に見事な朝顔が咲いていることを側聞した秀吉が、茶会を催すようにと利休に命じた。当日、秀吉が出かけていくと、庭には一輪も見当たらない。興ざめことと思っていると、床の間に、色鮮やかな朝顔の花が一輪だけ活けてあり、秀吉はまっこと感銘したという逸話)で知られる茶会の花である。どちらも「あさがお」である。また此に、古典〔上代〕の作品資料では、「桔梗」の古名とも云われていて、ちょっとややこしい花であったりもする。

重ねて、江戸時代初期の俳人安原貞室『かた言』には、

一女のこと葉に麩焼(ふのやき)を朝がをといへるハ火にてあぶり侍ればしほむによて蕣(あさがほ)の華(はな)の。日にしほるゝゆへに。名付。初(そめ)しといふ説(せつ)は如何、〈略〉只人のつくろはぬ朝(あした)の皃(かほ)のやうなるといふ心なるべし〔二一七頁〕
 
とあって、女房詞では「あさがお」は、麩焼きのことにも用いていたりもする。

本学にも、「むくげ」の花は植栽されていて、美しい見頃の時となっている。そして、

朝がほや一輪深き淵のいろ   俳諧・蕪村句集〔一七八四〕秋
あさがほの釣瓶とられてもらひみづ

と詠まれてきた。こちらも各家々の日蔭づくりに一役を担って咲き誇っているようだ。暑き夏の朝にホッと一息、涼なる茶を一服嗜みて一日の活動をはじめていこう。良き夏をお迎えください。

朝顔

朝顔

槿花

槿花