萩原 義雄 識

気候変動は夏から秋へと移行というよりか、このまま一気に気温は冬にまっしぐらの感を覚える。北からは初冠雪、南は台風と何とも言えない。南関東地方も朝晩は肌寒さから着衣も半袖から七分袖、そして長袖とはいかず、中間衣類のお洒落な服装を楽しむ間もなく過ぎていく。まさに往き来する人たちの服装が物語っている。夜中には、秋の虫がいっせいに鳴き出す。猛暑と極所の雷雨の影響を受け、全国の季節野菜や果実が卸し市場、そして身近な売り場にも値上げとなって、各家庭の台所を脅かしている。こんな夜長に、さまざまな人々による新たな知恵とアイディアが生まれている。

こんな折、人が感心を寄せることは、苦肉の策とはいかないまでも途方も無い術や技で誕生する時ともなる。その恩恵を承ける人はあらゆる情報メディアのなかで、机上のPC機器にとどまらず手持ちのスマホ機器から実に単簡にキャッチし、これを承けて多くの仲間に拡散するという仕組み、さらに直接現地に赴くこともなくネット通販などで取り寄せが可能ということから、生産者から消費者の台所に運ばれてくるようにもなった。輸送と鮮度のための温度管理設備が整ったことが大きい。冷凍食材が各々の知恵で、術と技となって電子レンジを使わずとも新たな自然解凍法などを生みだしてきている。

古典作品『大鏡』下卷・道長伝上に登場する世継と重木(繁樹)の語る会話中に、「仏在世(ざいせ)の浄名居士(じやうみやうこじ)とおぼえたまふものかな」といへは、世継がいはく、「昔、唐国に、孔子(くじ)と申すもの知り、のたまひけるやう侍り。「智者(ちさ)は千のおもひはかり、かならず一つあやまちあり」とあれば、世継、年百歳(ももとせ)に多くあまり、二百歳にたらぬほどにて、かくまでは間はず語り申すは、昔の人にも劣らざりけるにやあらむ、となむおぼゆる」といへは、繁樹、「しかしか」。と中国の孔子『論語』の一言を以てと叙述する。「千に一の誤り」は、常日頃の吾人たちにとっても箴言となる。利便を求めるあまり、別な負の場面を造り出してはいないのかを問うことにもなろう。人は枯渇することで新たかな資源を求めて突き進まんとする。何事も急ぎもせず、じっくりと検証する心眼を養いつくす時と場が必要ともなろう。その時と場が大学生活四年間というのを短いと思うのか、長いと思うのか、人それぞれだろう。だが、こちらも小中高に前倒しする動きもある。その新語が温泉観光地の教育関係者が企画した「旅スタ」(和語「たび」と洋語「スタディ(study)」)、平日家族と旅行しても学校を欠席扱いにしないという。「たびいく【旅育】」ともいう。どのような効果を今後日本の学校教育にもたらすかは誰もわからないことだが、じっと見守ってみたい。
 
《補助資料》
歴史物語『大鏡(おおかがみ)』院政時代〔鎌倉時代古写本が現存、データは平松家本に基づく〕
『大鏡』人物名「よつぎ」と「しげき」の所出数値一覧

数番 人名 世継 しげき 合計
世継 77 0 77
重木 0 11 11
繁樹 0 16 16
  合計 0 16 16

※「世継」七七例
※「繁樹」「重木」二七例
両者の名前からして話者「世継」の登場が大幅に上回って合計いることを知る。
 
小学館『日本国語大辞典』第二版
[親見出し]ち-しゃ【知者・智者】ちしゃの千慮(せんりょ)に一失(いっしつ)(『史記』淮陰侯伝の「智者千慮必有一失」による)知恵のすぐれた人でも、多くの考えの中には、一つぐらいの思いあやまりや失策がある。*大鏡〔一二C前〕五・道長上「むかし、からくにに、孔子と申ものしりのたまひけるやう侍り、智者は、せんのおもひはかり、かならず一あやまちありとなんあれば」*源平盛衰記〔一四C前〕一一・経俊入布引滝事「智者(チシャ)の千慮(せんリョ)一失(いっシツ)有りと云は、加様の事にや」
文明本節用集〔室町中〕「智者千慮必有二一失一(チシャノセンリョモカナラズイッシツアリ)〔漢書〕」*譬喩尽〔一七八六(天明六)〕二「智者(チシャ)も千慮(センリョ)の一失(イッシツ)」【辞書】文明 ※『大鏡』では、典拠を「孔子」の言行録と世継ぎが語るのだが、実際は『史記』『漢書』を典拠とする。ネーミング(命名)として、新語「旅スタ」を取り上げてみたが、他にも「ラーケーション」(ラーニング+バケーション)子供の学び(ラーニング)と、保護者の休み(バケーション)を組み合わせた類語表現がその活動と共に動き出している。