萩原 義雄 識

月は、和名を「つき」と云う。古語の「大陰」、「月讀壯士(つきよみをとこ)」「佐散良衣壯士(ささらえをとこ)」等と言った異名を持つ。そして、時の移り変わりに基づき三日の月を「三日月」弦月を「弓張月」で、上弦と下弦と呼ぶ。滿月を「望月(もちづき)」、十六日の月を「十六夜月(いざよひづき)」なおも、十七日の月を「立待月(たちまちづき)」、十八日の月を「居待月(ゐまちづき)」、十九日の月を「寢待月(ねまちづき)」、「臥待月(ふしまちづき)」、二十日の月を「ふけ待月(まち)」、二十日以後、夜が明けての直後、うっすらと殘る月を「有明月(ありあけづき)」と名を変えつつ、地球から最も近い星を斯くも見定めてきた。実際、今の吾人達も十五夜の「望月」を最も貴び、海の潮の満ち干きにも、そして身體の氣の流れにも左右することを学び伝えてきている。

此の月までの距離を人が造り出した球体形造物を以て対比し、その距離を三十九万九千㎞と算出し、その距離を一人(ひとり)の人が一生を懸けて自らの足で移動し往復する。季節感としては、夏が最も脅威となる。趙長距離走(ウルトラマラソン)には、真夏の猛暑は夜中とは言え走りはきつい。常に氣候の安定した地を選択するのもひとつの手段だろうが、そう容易く環境対応はむつかしいのが現況なのだ。身心の整え(睡眠・食事・運動)も必須となる。三つには、ケガがつきもの、骨折、捻挫、筋断裂など外傷もケアをしても再発する。若い時のケガは、必ず老いと共に戻ってくる。此を禦ぐ方法は、日々の万遍なくの継続トレーニングしかない。人に褒めてもらえるものではないが、継続が一番と言い聞かせて続けてきた。動きもスローだが・・・。楽しむ心意気。

昨今、人類は、地球から月へ到達することに余念がない。無人探査機による月面着陸し、土壌探査が進む。人にとって最大な「水」が凍って残存すれば、最大のエネルギー源化に繋がるという。此の果てしない夢を漫画を用いて、手塚治虫さんは見せてきた。なかでも、『火の鳥』卷七で、纔か一人の男がロボットや機器を動かし地下資源を採掘する画像が描かれている。当に、此の漫画のシーンが現実化へと近づいているのかもしれない。命の根元を見詰める手塚治虫ワールドが此の作品に描画化されている。手塚作品の言語資源を電子データ化し、「YeStndy」に収める作業を重ねて来た。此れもそろそろ整理せねばならないときがちかづいてきている。

月の異名として、『撮壤集』という古辞書に、「玉兎。金波。氷鏡。氷輪。金精。金盆。蟾蜍。嫦娥。陰魄。桂輪。姮娥。素娥」と云った異名が記載され、同じく行譽編『壒嚢鈔』にも「銀鉤(ギンコウ)。王鉤。銀光。王鏡。金魄。金波。菟影。兎月。桂輪。桂影。仙蛾。陰精。虚弓(繊ノ名也)。蛾眉(同上)。破鏡(半月也)」とし、斯くも異なる名を連ねていて、その月には「『遊仙窟』ニ恆娥は月人の女なり」とし、月人女「姮娥」と『万葉集』ニ「佐散良衣壮公(サヽラエヲトコ)」、『童蒙抄』ニ「月夜見男(つきよみをとこ)」=「桂男(かつらをとこ)」が棲むとしている。

今年も月を語るなかで、平安時代、鎌倉時代の観月は、「望月」と「弓張月」とが共に描かれてきた。心安らぐ人々の夜空を見上げ、尽きせぬ思いを語り尽くすときになればと心から思う。
 
《補助資料》
『大辞泉』
ウルトラマラソン【ultramarathon】100キロ以上の超長距離を数日間かけて走るマラソン競技。完走することが目標で、スピードは競わない。※補記:ノンストップ最長365㎞、59時間(北海道稚内から札幌テレビ塔迄、木戸孝美、萩原義雄両名が完走する)。他に、ピースラン(長崎から広島)などあり。
手塚治虫全集(手塚治虫プロダクション)、『火の鳥』第七卷(復活編)一〇四頁~一二三頁「月の上じゃ」「月潟宇宙運輸株式会社」「五百年間月は地球の便利な出先機関」など。「YeStudy」は、駒澤大学授業支援システム(二〇二三年度三月終了)
『撮壤集』(さつじょうしゅう)著者は飯尾永祥(いいおえいしょう)享徳三年成立。
小学館『日本国語大辞典』第二版
あいのうしょう[アイナウセウ]【壒嚢鈔
室町中期の辞書。七巻本と一五巻本がある。行誉(ぎょうよ)撰。文安二~三年(一四四五~四六)成立。仏教や風俗などに関する和漢の故事、国字、漢字の意味や起源など五三六項目について記した百科事典的なもの。→塵添壒嚢抄(じんてんあいのうしょう)。【発音】アイノーショー〔標ア〕[ノ]