萩原 義雄 識

朝目覚めて、近くの公園などを散歩する。これとは別に早朝の電車に乗って日帰りのできる風光明媚な所に散策に出かける。此方はちょっとした計画表と交通費が必要となる。
 此の日々の「散歩」と時節に併せた「散策」とでは何が大きくことなるかは云うまでもない。知らない土地に出向くという、ちょっぴりだが「勇気」「やる気」と見知らぬものを手にしたり、眺めたり、不断の暮らしでは味わえない空間が広がり、ワクワク感がついてくることだ。写真撮影用のカメラもスマホやタブレットで代用できるので持参可能。スケッチが得意な人は掌サイズから大判画用紙と鉛筆やペンが必需品だったのが此れも撮影用のスマホやタブッレトで間に合う時代だ。当に万能機器なのだが、自宅や学校でのパソコンでもそうなのだが、接続の連絡用FACE-BOOK やLINE が次つぎとメッセージを送り続けられてくる。このときばかりはオフにしておくのが可能であればと思わずにはいられない。
 初夏を迎え、低気圧前線の降雨予測も随分進捗していて、雨や風などの情報も地域毎にピンポイントで精確な日時情報を確認することができる。
さほど心配事は軽減されている。次は行き先の情報をAI に訊ねてみると、あなただけに見合った予定表が即座に提供してくる。そのAI 機能で得られる予定表も捨てたものではないのだが、そこはぐっと堪えて、自身のちからだけで、多少の行き違いがあろうとも紙製の地図と睨めっこしながら行き道を択ぶことを吾人はお勧めしたい。
 今であれば、東京近郊の神奈川、千葉、埼玉、山梨と広がる。季節を彩る植物「あぢさい散策」も人知れず、その土地の土壌によって異なった花模様が見られ、ゆっくり歩き、その土地の寺社を巡ってみる。異国の旅人もはじめは安心情報をもとに人里離れた景観地に足を運ぶようで、その数も徐々に増してきている。
 吾人が昨年、数人の仲間で出かけた新松田駅からの「あじさいの里ウォーク」はその川沿いの平地を散策するに相応しいところだったので、今年もKOCC の素敵な皆さんと出向くことになる。畠にはもぎたて新種の白い蜀黍直売所には、これを目当ての行列ができる。少し歩くと「あじさい観音像」祀る曹洞宗寺院があったり、その先には日本酒の醸造蔵所で休憩し、ワンコインによる利き酒が楽しめたりする。足柄山の地下水と冨士山の地下水の二種類の水とが旨く交あうので醸造に適合するという話しをオーナーから聞いた。折しも都会の某大学生のグループが醸造所見学にやってきていた。熱心に説明を聞いていた光景も目にした。
 何を発見するかは、ひとり一人で違う。一番大事なことは、「現実物とことばのつきあわせ」ができるかどうかであろう。本学の宗祖道元禅師のことばに「千聞は一見に如かず」という珠玉な名言がある。どうぞ、梅雨間際、水越祓のくらしを豊かな「紫陽花」の彩りのように、この散策で変えてみてはいかがだろう。
 

あじさいの里開成町 https://kaisei-ajisai.com/
あぢさい観音像
KOCC〔本学の社会人健康講座同好会団体〕
発起人は森本葵先生、監査人は萩原義雄

 
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
さん-ぽ【散歩】〔名〕気晴らしや健康などのために、ぶらぶら歩くこと。あてもなく遊び歩くこと。そぞろ歩き。散策。*済北集〔一三四六(正平一/貞和二)頃か〕二・梅花「散歩前坡与後岡別尋幽径禅房」*良寛詩〔一八三五(天保六)頃〕遊松之尾「老少相率散歩去松林数里無塵埃」*当世書生気質〔一八八五(明治一八)~八六〕〈坪内逍遙〉四「残(のこん)の楓葉(もみぢ)の遊覧かたがた、運動のため散歩(サンポ)をなさん」*武蔵野〔一八九八(明治三一)〕〈国木田独歩〉二「午後犬を伴ふて散歩す。林に入り黙坐す。犬眠る」*真夏の死〔一九五二(昭和二七)〕〈三島由紀夫〉「克雄をつれて近くの公園まで散歩に行って、砂遊びに興じてゐる大ぜいの子供たちを見ても」*嫏嬛記-上「古之老人、飯後必散歩。欲動其身以消上レ食也。故後人以散歩、為消揺【語誌】(1)中世から漢詩文に使用例を見ることができるが、一般的に用いられるようになったのは明治時代である。ヘボン『和英語林集成』では改正増補版(明治一九年)から見られるが、その意味として「walking for exercise」と記されているように、当初「散歩」は運動の一種と考えられていた。(2)海水浴と同じく西洋から教わった風俗の一つで、使用されるにつれて、単に運動としてばかりでなく、古くから使用されていた「逍遙」の意味をも含むようになった。【発音】〈標ア〉[0]〈京ア〉[0]【辞書】言海【表記】【散歩】言海
さん-さく【散策】〔名〕(「策」はつえ。つえをひくこと)特に目的がなく、ぶらぶらと歩くこと。散歩。*雲壑猿吟〔一四二九(永享元)頃〕晩凉散策「林間散策歩遅々。避暑帰来薄暮時」*松蔭吟稿〔一五〇七(永正四)頃〕春晴野歩「春晴散策出塵衢。無限風光日未晡」*外科室〔一八九五(明治二八)〕〈泉鏡花〉下「一日予は渠とともに、小石川なる植物園に散策(サンサク)しつ」*小春〔一九〇〇(明治三三)〕〈国木田独歩〉二「仕事をするにも、散策(サンサク)を試みるにも」*堕落〔一九六五(昭和四〇)〕〈高橋和巳〉一・四「しばらく繁華街を散策することを提案し」*杜甫-鄭典設自施州帰詩「羸老思散策、渚払蒹葭塞」【発音】〈標ア〉[0]〈京ア〉[0]