AIの情報網は目覚ましいものとなってきている。パソコンだけでない既に多くの方が常備するようにもなっているスマホやタブレットの小型機器にも登載することができる。
なかでもスマホは新たな認知機能を有していて、あらゆるカード機能にも代わる。だが、この機能もおおもとの電源やシステムが低下すると何も役にたたず、その機能を停滞することにつながってしまう。多角機能を有するようになって、人に便利な持ち物になったものは、予想以上に時に大きな穽が潜んでいたりするものだ。便利な裏には、必ず目に見えない労力と時間が潜んでいて、その動力は大がかりなものになろうか。
私たちは、日本語を母国語としている。書き文字は大陸中国から齎された漢字に依って培われてきた。此の漢字も実に日本語を表現するのに役立ってきた。例えば、「井」字は水の源を掌る「井戸」であったり、姓名「井上」「井川」「井口」に始まり、「井伊谷」出自の彦根城主として知られた「井伊」家(因みに、招き猫でも知られる世田谷豪徳寺は菩提寺)とその人物にも継承されてきている。古人の名前に「井右衛門(いえもん)」、「井之助(いのすけ)」や「井美」と云ったようにも使われてもきた。地名・姓名・人名にあって安定さと豊かさを象徴する表意を持つ文字なのだが、やがて、此の「井」字にあたる「井」に大きな石を投げ入れる悪戯者が表れたのであろう。その表意字が「トンブリ」で井のなかに石を容れた「□」字として室町時代の古辞書、印度本系『節用集』黒本本に、『運歩色葉集』の登部にはじめて登載する。訓みをその井水に落ちる擬音語「ドボン」「ドブン」にして「□」の字が誕生する。遊戯文字として、江戸時代の庶民が文字学びを重ねていくなかで、知と遊とが共に働きあって楽しみの文字学となっていく。武家士からのまねびから町人文化の賑わいのなかに融け込んでいき、やがては、これを略して「丼」の字が江戸庶民が知る「慳貪屋(けんどんや)」という一杯盛り切りの食事を出す店で使われていた器鉢が「けんどんぶり鉢」と掛け合わせて云い、それを略して「どんぶり鉢」→「丼」(丼物[どんぶり])となっている。
ながながと記述してきたが、「井」に「丶」字をぽつんと添えると、その意味が大きく変容する譬えだと思ってお読みいただければと思う。ほんの少しのものを添えたことで、意図するものが別仕立ての事物に様変わりしていく証しでもあった。
いま、ちょっことしたものを取り込んだり、取り外すことで様変わりする物事が多数存在する。そのごちゃまぜの暮らしから、そのごちゃごちゃを交通整理して、多様性の一元化が進むのも然りかと思う。その究極を担う道標人が何(どう)であれ、政治、経済、法律、医療、科学という分野へと波及していく。その基軸が人の知と情の養いに基底があるのであれば、時を必要とする底辺の場として「感じの力を培う」ことをしっかり身につけておきたいものだ。その方法は千差万別であっていい。己れに見合った尺法であることが一番望ましいからだ。
ここにそのAIが人々にどう機能して、何がえられようとしていくのかは、誰もが知ることのできない未知の可能性を秘めていることは慥かで、その能力は、急速に変幻自在にして活溌化してきている。
《参考文献資料》
白川静著『文字答問』〔平凡社ライブラリー812 2014/05 刊ISBN:9784582768121〕
「井と丼の違いは?」「名刺の起源は?」「東洋はどこ?」――『字通』『常用字解』の著者が、読者の様々な質問に答える回答集。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
どんぶり【一】〔副〕(「と」を伴って用いることもある)水中に勢いよく落ち込む音、また、そのさまを表わす語。どぶり。どぶん。*虎明本狂言・丼礑〔室町末~近世初〕「つぶてをうつまねして『どんぶり』『いかふ今の所はふかひは』」*談義本・教訓雑長持〔一七五二(宝暦二)〕二・大天狗藪医師を教戒し給ふ事「徳蔵さへ、千尋の底へ、どんぶりいはせたは、まだ余り遠からぬ噂」*滑稽本・東海道中膝栗毛〔一八〇二(享和二)~〇九〕八・下「もしやはしのうへから、どんぶりとやりはせまいかと、こころのうちにゆだんせず」*滑稽本・浮世風呂〔一八〇九(文化六)~一三〕三・下「今お節(せち)を祝った。腹こなしに、どんぶり温(あったま)らうといふ腹だが」*桐一葉〔一八九四(明治二七)~九五〕〈坪内逍遙〉五・三「迷うていってどんぶりと、深みへおちて死なしゃれた」【二】〔名〕(【一】の音から連想していう)(1)風呂をいう、盗人・てきや仲間の隠語。〔日本隠語集{一八九二(明治二五)}〕(2)板の間かせぎをいう、盗人・てきや仲間の隠語。〔隠語輯覧{一九一五(大正四)}〕( )入浴をいう、盗人・てきや仲間の隠語。〔特3殊語百科辞典{一九三一(昭和六)}〕【方言】〔名〕〔一〕(1)ふろ。湯。《どんぶり》島根県723《どんびり》島根県八束郡725《どんぼり》島根県出雲724《どんぶ》富山県西礪波郡(幼児語)400《どんぶう》島根県大根島732《おどんぶ・おどぶ》長野県(幼児語)469《どんぼ》島根県能義郡(幼児語)725《どんべ》松江 † 025《どんべり》島根県松江062(2)据えふろ。また、銭湯。《どんぶり》北海道松前†050(3)ふろに入ること。入浴。《どんぶり》北海道函館067( )魚釣りなどに用いる重り。《どんぶり》香川県827 木田4郡829 長崎県北松浦郡899 壱岐島915〔二〕(1)水がよどんで深い所。淵(ふち)。《どんぶり》長野県469480 兵庫県多紀郡668《どんぼり》静岡県志太郡(小淵)535《どんぼれ》京都府竹野郡622《どんぶら》長野県469 静岡県賀茂郡019《どんぶ・どんぼ》岐阜県郡上郡504《どんぶかり》長崎県南高来郡905 (2)海の急に深くなった所。《どんぶかり・どぶんかり》香川県小豆島829《どぶんかく》香川県827 (3)水たまり。《どんぶり》山梨県455 和歌山県那賀郡
どんぶり【丼】〔名〕(1)厚手で深い陶製の、食物を盛る鉢。どんぶりばち。*随筆・耳嚢〔一七八四(天明四)~一八一四(文化一一)〕六・商家豪智の事「豆腐をあつく煮てからしわさびなど強く掛けて〈略〉丼に入て出しける」*鳩翁道話〔一八三四(天保五)〕二・上「飯蛸が七つ八つ、南京のどんぶりの中に車座に座禅してゐる」(2)金、鼻紙など何でも入れて、ふところに持ち歩く大きな袋。更紗(さらさ)・緞子(どんす)などで作り、江戸時代、若い遊び人が好んで用いた。*黄表紙・悦贔屓蝦夷押領〔一七八八(天明八)〕「ゑぞにしきで大どんぶりをこしらへてこよう」*浄瑠璃・三拾石羌始〔一七九二(寛政四)〕六「めん錦のどんぶり出して金壱両、きれた物かと投出した、自慢の鼻も高蒔絵の」*随筆・賤のをだ巻〔一八〇二(享和二)〕「さらさ或ひは純子などにて大なる袋を拵へ、何と云ふ事なく此の袋の中へ入れて懐中する人も有りけり、何事も此の袋一つにて事足りたり、是をどんぶりと号して、若き遊人・俗客なんどは専ら用ひたり」(3)職人などの、腹掛けの前部につけた共布(ともぎれ)の大きな物入れ。*落語・磯の白浪〔一八九〇(明治二三)〕〈七代目土橋亭りう馬〉「腹掛の隠袋(ドンブリ)の中で金が迂鳴(うなっ)てるんだ」*茗荷畠〔一九〇七(明治四〇)〕〈真山青果〉五「腹掛のドンブリには大きな棕梠の塗ブラシを立て」(4)「どんぶりもの(丼物)」の略。*俳諧・二葉の松〔一六九〇(元禄三)〕「暮の眠を覚す丼」*西洋道中膝栗毛〔一八七〇(明治三)~七六〕〈仮名垣魯文〉六・上「稲半(北馬道通)の舎鶩鍋(しゃもなべ)か伊豆熊の鰻飯(ドンブリ)にしなせへ」*当世書生気質〔一八八五(明治一八)~八六〕〈坪内逍遙〉七「鰌のどんぶりか何かを取って、澄して夕食を食った所へ」(5)江戸時代、瀬戸内海を中心に買積み経営に従事した小廻しの廻船。弁財造り系統の小荷船で、百石から百五十石積程度のものが多い。いさば。*和漢船用集〔一七六六(明和三)〕四・舟名数海舶之部「トンフリ濁音に読字未考。小船也、百三十石積、百四五十石積の船也」【補注】「丼」には『集韻』に「投二物井中一声」とあるように、井戸に物を投げいれた音の意がある。名詞「ドンブリ」に「丼」があてられたのは、井戸に物を投げいれたときの音をさす副詞「ドンブリ」に対応する漢語が「丼」であったことによるか。【方言】(1)財布。《どんぶり》富山県062(2) ポケット。隠し。《どんぶり》山梨県香川県827829(3)醜業婦。《どんぶり》長野県下水内郡470【語源説】水中に物を投げ入れる音から〔松屋筆記〕。((2)について)ダン袋の換言〔俚言集覧增〕。【発音】〈なまり〉デンブリ〔岐阜・鹿児島方言〕ドブラ・ドブリ〔信州風物〕トンビリ〔島根〕ドンブイ・ドンブル〔鹿児島方言〕ドンブラ〔栃木・埼玉・信州風物〕〈標ア〉[0]〈京ア〉[ド]【辞書】ヘボン・言海【表記】【丼】言海690《おどんぼり》山梨県(深い水たまり)460461《どんぶら》長野県北安曇郡(深い水たまり)476(4)汚水がたまった所。《どんぶり》奈良県675 和歌山市691(5)池。ため池。《どんぶ》福井県大野郡439 岐阜県郡上郡504《どんぶう》福井県427《どんぶる》富山県砺波398《どんぼ》岐阜県郡上郡498(6)堀。《どんぼる》富山県390(7)沼。《どんぼ》静岡県520(8)谷の深い所。また、大きな石などが多くある谷。《どんぼ》和歌山県東牟婁郡690(9)くぼ地。《どんぶり》三重県志摩585(10)落とし穴。また、雪で作った落とし穴。《どんぶり》新潟県中頸城郡383《どんぶら》山形県南村山郡139(11)草木の茂っていて通れない所。《どんぼ》奈良県吉野郡【発音】【一】は〈標ア〉[ブ]〈京ア〉[ド]【辞書】黒本・書言・言海【表記】【丼】686書言・言海【□】黒本