萩原 義雄 識

夏になると、涼感を求めて緑蔭の地が求められて行く。人が寄り添うことのできる緑蔭の地が喧噪まっただ中の大都会となれば、その場も自ずと限られもしよう。熱中対策は言うまでもない。水分補給が常に欠かせない。心地の良い涼風が求められもする。無ければ携帯用の小型扇風機も一役を買うことも多い。汗拭い手巾なども水に浸して、身体のくびれ部位であるところの頸首や手首、足首を十分に温め冷やすことを繰り返すことで先ずは身体の新陳代謝を活溌化にさせ、体感覚を能くしておくことに努めておきたい。

それには、良(よ)く寝て、能(よ)く食べる、そして、佳(よ)く動(はたら)くことは無論のこと、己れが目指すと
ころをきっちり見定めるのも此の季節が心身ともに一番最適な時節となっている。

己れが何を求め、何かを極める、はたまた、一人でせずに気の合う素敵な仲間たちと互いに向きあいながら目標に向かって求めていくことの大切さも自ずと生じてくるときでもある。此処には何処となく各々にある種の役割が生まれてきて、円滑に運ぶための展開の準備も求められていく。その過程のなかで、関わりによる事象や物事に得も言えない彩りが生じてくる。此の移り描かれた「こと」や「もの」が異彩を放つものと言われる所以ともなる。これらをどう導き出していくかと云った表現デザインも大きな導きの標人(しるべびと)の成す技として知っておきたい。大きな一つの統合型による構築法が凡てに成し終えるかは誰もが知るところではないが、着実なる完成形が臨まれていくものだと言えよう。

季節が齎(もたら)す、人の能動や行動が如実に見えていくことから、此の月間は、正に妙趣な時空間と人の人たる出処となっているのではないかと感に入る。

譬えに、江戸時代の『劇場節用集(しばいせつようしう)』の末尾冠頭部に載せる「星(ほし)のくりやう」として、「午(うま)の刻(こく)、流星南(りうせいみなみ)に出(いで)て、北に拱(く)するは我大願成就(わがたいぐわんじやうじゆ)の吉星(きつせい)なぞと随分(ついぶん)によばまわしていふべし」の一言からも見えてきている。
 
【補助参考資料】
小学館『日本国語大辞典』第二版
「ほし ⇛ 星のくりやう」の子見出しは、未収載。
かな書きの「くりやう」として、字音「供料」の語と推し、繙くに、「供料」の語がある。
く-りょう[‥レウ]【供料】〔名〕(「ぐりょう」とも)供養の料。*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕一三・三九「法厳聖人、善神に申さく、明日の朝には二人の供䉼(ぐれう)を持来り給へ」*栂尾明恵上人遺訓〔一二三八(暦仁元)〕「此仏法を盗で、天下の祈りするとて、寺領を知行し、檀那の祈祷するとて、供料を取り、三業も静まらぬ勤め行法」*梵舜本沙石集〔一二八三(弘安六)〕八「供料・供米・布施なむどとるは、法を売るにあたる」*東大寺続要録〔一二八一(弘安四)~一三〇〇頃〕「防州宮野庄者依供料懈怠出寺家畢」

『劇場節用集』江戸時代好文舎青氏(こうぶんしやせいし)作、竹原雲峯(たけはらうんぽう)画、享和元年(一八〇一)版などがあり、江戸時代の演劇文化を知るうえで貴重な資料で、歌舞伎や人形浄瑠璃などの演劇用語や楽屋詞をまとめた案内書型の辞書。江戸時代の通用した『節用集』から借形して、戲塲舞台の専門詞や役者のしきたりなどを解説する。なかでも、特殊な語集として「隠(せんほ)語」の用語「たまけ〔見ぶつ〕」「ゑこ〔子ども〕」「せぶる〔取る〕」「ぎら〔いしやう〕」「久七〔さば〕」などは目を惹くものとなっている。


□星のくりやう
生成AIによると、
主に和裁や仕立て、着物の世界で使われる表現で、縫い代や余った布地をあらかじめ内側に折り込んで始末しておく技術・工夫を指します。着物の寸法直しや、体型変化に合わせた調整を容易にするための伝統的な知恵。
 
午(うま)の刻(こく)現代の午前十一時から午後一時頃までの約二時間。
北に拱(く)[たんだく]する
人間の水は南。星は北にたんだくの。天の海面雲の波。立ち添ふや呂水の堤の。月に嘯き。水に戯ぶれ波を穿ち。袖を返すや。

▼謡曲「天鼓」の文言

 
□観智院本『類聚名義抄』〔天理図書館蔵、佛下本手部五七3〕

 
 記象反 コマヌク[平・平・上・平]\アキラカナリ ノソム 呉音恐〈平〉
マキル ウ(イ[上])タク[上・上濁・平]タムタク[平・平・上濁・○]タヽク トル
禾ル ヲサム ヌク/音恐 テヲタムタク[平・上・平・○・○・○]
 
小学館『日本国語大辞典』
たんだく【拱】〔名〕(動詞「たんだく(拱)」の名詞化。多く「たんだくする」の形で用いる)(1)両手を組むこと。こまねくこと。両手を前に合わせて拝礼すること。*太平記〔一四C後〕四・俊明極参内事「天上に星有り、皆北に拱(タンタク)す、人間東に朝せずと云こと無し」日葡辞書〔一六〇三(慶長八)~〇四〕「ホクシンノソノトコロニイテシュセイノtandacu(タンダク)スルガゴトシ」書言字考節用集〔一七一七(享保二)〕八「拱タンダクス〔藉田賦〕若衆星之拱北辰*浄瑠璃・頼政追善芝〔一七二四(享保九)〕一「天上の衆星、北にたんだくして尊きを忘れず」(2)そのものに相対すること。心を向けること。*歌舞伎・百千鳥鳴門白浪〔一七九七(寛政九)〕二「それよりは早、程たえて一心爰にたんだくせうと思へば」【辞書】日葡・書言【表記】【拱】書言