萩原 義雄 記

『伊勢物語』第二段に、
「やよひのついたちあめそをふるにやりける」という一文がある。「やよひ」というと「弥生三月一日」、季節柄は今の四月前半、月の光も届かぬ闇夜イメーージとするのが常であろう。そこに「雨そをぶる」、言わばビショビショと雨が降っている日に、女の元に和歌を送る主人公だが、此の季節が初夏と想定しなおして見ていくと、どう見えるかと考えて見るのだ。この時、和語動詞「そぼふる」の語だが、『日国』第二版には『万葉集』卷十六に作者未詳歌に初出する。こことは別段である第八〇段「三月のつごもり・・・・・・」が続く。となれば、丸ごと一ケ月が雨日、これからの梅雨時に似ていることに氣付く。そして、【語誌】『伊勢物語』古写本の仮名書き例や旧注の「添降」「添雨」「壮雨」といった漢字表記、挙例の『日葡辞書』などから、ハ行転呼で「ソヲフル」となったことが知られ、また、『古今集』声点本などには「ソホブル」・「ソヲブル」の語形も見えている。が目を引くのだ。

今風にいうと、「しょぼしょぼと降る雨」ということで、「しょぼふる」と表現もする。何故このような最中を選んで和歌を持たしたかだが、護衛の者に覚られずにそっと手渡したい男心が見て取れると同寺に、受け取った女人の心にもこのような悪天候を推してまで届けようとする男の心を感じ取らせるシチュエーションが読み取れるからである。

天福本『伊勢物語』第二段

天福本『伊勢物語』第二段

さて、五月下旬にオープンした種月館駒沢公園側の低層建造物「緑の丘」は、学生たちの新たな野外の寛ぎの場となっていくことになる。ここしばらくは、夏の強い陽射しと紛う晴れの日が続いた。だが、令和の「雨そぼふる」季節を迎えたとき、この施設には学生はどのように利用するのだろうか?それを支える側として、雨としたしむ「しつらえ」の活動を行えたらと夢想しているのは、吾人だけではなかろう。きっと、素敵なアィディアがここにも描き出されていくことになると想い描く昨今である。これと逆な発想が晴れの取り扱いである。「日傘」を用いることで体感温度を下げることにもなる。男性も日傘を差すことを奨励する昨今、「かさ【傘】」がそのアイテムとなるのだろうかと・・・・・・。

《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
そぼ-ふ・る【─降】〔自ラ五(四)〕(古くは「そほふる」。「そほぶる」「そおふる(ぶる)」の時代も)しとしとと細かい雨が降る。しめやかに雨が降る。*万葉集〔八C後〕一六・三八八三「伊夜彦おのれ神さび青雲のたな引く日すら小雨曾保零(ソホふる)〈作者未詳〉」*伊勢物語〔一〇C 前〕八〇「三月のつごもりに、その日雨そほふるに、人のもとへおりて奉らすとてよめる」*宇治拾遺物語〔一二二一(承久三)頃〕七・六「これは空のくもりて、雨のそほふるに、いみじくめでたう、をかしう見ゆ」*兼載雑談〔一五一〇(永正七)頃〕「仮名の清濁まがふ事おほし。別に注レ之。春がすみ。朝がすみ。〈略〉かづく。そぼふる」*日葡辞書〔一六〇三(慶長八)~〇四〕「Souofuru(ソヲフル)〈訳〉霧雨が降る。歌語」*滑稽本・七偏人〔一八五七(安政四)~六三〕四・中「折しも雨はそぼ降(フリ)いで、遠寺の鐘の鏗々(かうかう)ともの凄まじく聞ゆる時」*改正増補和英語林集成〔一八八六(明治一九)〕「sobofuru(ソボフル) アメ」*堕落〔一九六五(昭和四〇)〕〈高橋和巳〉一・四「小雨のそぼ降る中を」【語誌】(1)「ソホフル」の「ソホ」は、動詞「ソホツ」の語幹と同根で擬声語に由来するものと思われる。(2)『伊勢物語』古写本の仮名書き例や旧注の「添降」「添雨」「壮雨」といった漢字表記、挙例の『日葡辞書』などから、ハ行転呼で「ソヲフル」となったことが知られ、また、『古今集』声点本などには「ソホブル」・「ソヲブル」の語形も見えている。(3)音変化によって音象徴の効果が減退した「ソヲフル」は、やがて雅語となって口頭語から退き、代って「ソボフル」、さらには「ショボフル」・「ショボツク」といった新語形を生んで現在にいたっている。【語源説】(1)ソボソボ‐フル(降)ところから〔万葉集類林〕。(2)サヲフル(細小降)の義〔言元梯〕。【発音】〈なまり〉上代は「そほふる」か。中世は「そほ(ヲ?)ふる」「そほ(ヲ?)ぶる」か。近世初期には「そぼふる」形もあらわれる。〈標ア〉[フ]〈ア史〉鎌倉●●●●〈京ア〉[0]
【上代特殊仮名遣い】ソホフル(※青色は甲類に属し、赤色は乙類に属する。)【辞書】易林・日葡・書言・言海【表記】【微降】易林・書言

小学館全文全訳古語辞典
そぼ-ふ・る【そぼ降る】〔自動詞ラ行四段〕{ら・り・る・る・れ・れ}《古くは「そほふる」》小雨がしとしとと降る。例「生けるかひありつる幸ひ人の光失ふ日にて、雨はそぼ降るなりけり」〈源氏・若菜・下〉訳この世に生きていたかいのあった幸せな人(=紫ノ上)が亡くなる日なので、雨はしとしとと降るのですね。しょぼ-ふ・る【─降】〔自ラ五(四)〕雨がしとしとと降る。雨がしっとりと降る。*俳諧・桜川〔一六七四(延宝二)〕春二「しょほふるや時は彌生の花の雨〈正隆〉」*猫又先生〔一九一九(大正八)〕〈南部修太郎〉「六月の末、もう梅雨にかかってしょぼ降る雨の鬱陶しい日が」*死〔一九六四(昭和三九)〕〈北杜夫〉「どんよりと陰鬱な雲あひ。〈略〉出発の前よりしょぼ降る雨となる」【発音】〈標ア〉[フ]

「熱中症」についての情報はこちら熱中症が疑われる人を見かけたらエアコンが効いている室内や風通しのよい日陰など、涼しい場所へ避難させる衣服をゆるめ、からだを冷やす(特に、首の回り、脇の下、足の付け根など)水分・塩分、経口補水液
※などを補給する
※ 水に食塩とブドウ糖を溶かしたもの涼しい場所へからだを冷やす水分補給自力で水が飲めない、意識がない場合は、すぐに救急車を呼びましょう!
〈ご注意〉暑さの感じ方は、人によって異なりますその日の体調や暑さに対する慣れなどが影響します。体調の変化に気をつけましょう。高齢者や子ども、障害者・障害児は、特に注意が必要です
・熱中症患者のおよそ半数は六十五歳以上の高齢者です。高齢者は暑さや水分不足に対する感覚機能が低下しており、暑さに対するからだの調整機能も低下しているので、注意が必要です。
・子どもは体温の調節能力がまだ十分に発達していないので、気を配る必要があります。
・のどの渇きを感じていなくても、こまめに水分補給しましょう。暑さを感じなくても室温や外気温を測定し、扇風機やエアコンを使って温度調整するよう心がけましょう。節電を意識するあまり、熱中症予防を忘れないようご注意ください気温や湿度の高い日には、無理な節電はせず、適度に扇風機やエアコンを使いましょう。
△ 厚生労働省熱中症関連情報[施策紹介、熱中症予防リーフレット、熱中症診療ガイドラインなど]
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/
△「健康のため水を飲もう」推進運動
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/
△ 職場における労働衛生対策[熱中症予防対策]
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei02.html
△ 環境省熱中症予防情報[暑さ指数(WBGT)]
△ 予報、熱中症環境保健マニュアル、熱中症予防リーフレットなど]
http://www.wbgt.env.go.jp/

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