萩原 義雄 記

クールビズの夏が到来している。というのだが、正装はやはり、ネクタイと上着着用が必要とされ、室内換気の送風・冷房は欠かせないようだ。となれば、《問いかけ》生地は如何だろうか?。《回答》弾力性・保温性・吸湿性に富み、衣料などに広く用いられるもの、それは「もめん【木綿・棉】」だろう。
江戸時代の関東地方では、『慶長見聞記』によると、「若き頃迄は諸人の衣裳木綿布子也。麻は絹に似たれはとて麻ぬのを色々に染、わたを入おひへと云て上着にせしなり。〈畧〉大永元年の春武蔵の国熊ヶ谷の市に立しに西国のもの木綿種を持来りて売買す。是を調法の物哉と買とりて植つれはおいたり。皆人是を見て次の年、又西国の者持来るを三浦の者とも熊谷の市に出て買取植ぬれは四五年のうち三浦に木綿多し。三浦木綿と号し諸国にて賞翫す。夫より此方関東にて諸人木綿を着ると語る。然るときんは木綿関東東に出来る事大永元年より慶長拾九年当年迄は九十四年此方としられたり。」と記載している。布地の素材は麻だけでなく、木綿がこれより諸人の衣服生地として展開をみせていく。その契機をここに見るのである。
汗ばむこの時季に身に纏う「浴衣(ゆかた)の大(おほ)かた木綿(もめん)なれども稀(まれ)に縮緬(ちりめん)等あり」、手拭(てぬぐ)いも同じく、「木綿(もめん)、巾(はば)二尺五寸を一筋(ひとすじ)と云(いふ)」と、『繪本商売往来』の語註記にも「木綿」が記載されている。

《図絵『河内名所図会』卷五・八コマ》

《図絵『河内名所図会』卷五・八コマ》

近くは、一九七五(昭和五〇)年の太田裕美の歌に、「木綿のハンカチーフ」があった。「恋人よ・・・・・・」と繰り返すなかで、最後の最後ではじめて「木綿のハンカチーフ」が登場するといった歌詞が忘れられない。洋語で「コットン」ということばも定着してきている。
この夏は、「木綿・棉」と親しんでみることにしようかと思う。

《補助資料》
岩波『広辞苑』第七版
も-めん【木綿】(古くはモンメン)①ワタの種子に付いている白くてやわらかな綿毛。衣服・ふとんなどの中に入れて暖をとるのに用いる。きわた。木綿綿(もめんわた)。②木綿糸の略。③木綿織の略。↓もめん-いと【木綿糸】↓もめん-おり【木綿織】↓もめん-ガッパ【木綿合羽】↓もめん-がみ【木綿紙】↓もめん-ぎれ【木綿切れ】↓もめん-じま【木綿縞】↓もめん-ちぢみ【木綿縮】↓もめん-づる【木綿蔓】↓もめん-どうふ【木綿豆腐】↓もめん-にしき【木綿錦】↓もめん-ぬのこ【木綿布子】↓もめん-ばおり【木綿羽織】↓もめん-ばた【木綿機】↓もめん-はば【木綿幅】↓もめん-ばり【木綿針】↓もめん-ばり【木綿張】↓もめん-もの【木綿物】↓もめん-わた【木綿綿】

小学館『日本国語大辞典』第二版
も-めん【木綿・棉】〔名〕(1)ワタの種子のまわりに生じる白くて柔らかな綿繊維。弾力性・吸湿性・保温性に富み衣料などに広く用いられる。わた。きわた。木綿わた。棉花。*今堀日吉神社文書‐(永祿三年)〔一五六〇(永禄三)〕一一月九日・保内商人中申上事書「於二伊勢道一、木綿・真綿保内へ取候条々」*ロドリゲス日本大文典〔一六〇四(慶長九)~〇八〕「Momen(モメン)」*元和本下学集〔一六一七(元和三)〕「木綿モメン木名也〈略〉亦衣類也」*俳諧・類船集〔一六七六(延宝四)〕和「綿〈略〉大和河内摂津よりは木棉を出す、近江美濃飛弾よりは真綿をのぼする」(2)「もめんいと(木綿糸)」の略。(3)「もめんおり(木綿織)」の略。*慶長見聞集〔一六一四(慶長一九)〕三「諸人のはかまもめん也。今の時代はあさなり」*黄表紙・孔子縞于時藍染〔一七八九(寛政元)〕中「もふ五匁高く売ってください。このもめんは地合がよすぎる」*小学入門(甲号)〔一八七四(明治七)〕〈民間版〉「衣服の科しなは木綿(モメン)あり又麻絹毛織あり」【方言】(1)新しい着物。晴れ着。《もめん》秋田県鹿角郡130132(2)植物、わた(綿)。《もめん》群馬県一部030 埼玉県一部030 千葉県一部030 新潟県一部030 山梨県一部030 長野県一部030 宮崎県一部030《もめんのき〔─木〕》鹿児島県一部030【語源説】モクメン(木綿)の略〔和句解・守貞漫稿〕。【発音】〈なまり〉モーメン〔石川〕モンメ〔伊賀〕モンメン〔播磨・長崎・鹿児島・鹿児島方言〕モンメン〔伊賀・淡路・大和・福岡・島原方言・大隅〕〈標ア〉[0]〈京ア〉(メ)【辞書】下学・文明・伊京・天正・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【木綿】下学・文明・天正・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【棉】文明【木棉】伊京コットン〔名〕(1)({英}cotton)木綿(もめん)。材質をいう場合に用いる。*舶来語便覧〔一九一二(大正元)〕〈棚橋一郎・鈴木誠一〉「コットン木綿Cotton (英) 木綿の義なり。今は訛りてカタンともいふ」(2)(製造者ウィリアム=コットンの名からという)毛のメリヤスの一種。*あじさいの歌〔一九五八(昭和三三)~五九〕〈石坂洋次郎〉台風のあと「コットンの上下のシャツの手首足首を」(3)「コットンペーパー」の略。*モダン辞典〔一九三〇(昭和五)〕「コットン(印)印刷紙の一種、黄い、厚い感じのする紙」*「戦前」という時代〔一九八四(昭和五九)~八五〕〈山本夏彦〉日本児童文庫「紙は卵色のコットンで、コットンはイギリスの紙だがそれを模してこの文庫のためにつくらせたと広告で読んで」【発音】〈標ア〉[コ]〈京ア〉[コ]