萩原 義雄 識

藤の花が例年より早く咲き誇りだしている。五月の連休が巡ってきて、四月に新たに大学の門をくぐったといえ、枝垂れ柳の下に幽かに遺る門跡のみであるが入ったことだろう。
陽射しが強くなればなるほど、戸外で過ごすひとときには樹木の蔭が恋しくもなろう。こうした折節には、斯くも藤棚が相応しい。
園芸学科、園芸部といったサークルが若しもあれば、是非とも学内の庭園学を学生の方々にお奨めしたいところだ。大樹の蔭も土質管理からはじまり、水やり、草むしりと絶え間なく続くことになる。日本庭園のなかで足立美術館の庭園はいつ觀ても行き届いていて心和む空間風景を提供してくれている。関東では足利フラワーパークの藤棚、東京でも亀戸天神の藤棚と見渡してみればあちらこちらにあるのだが、学びの構内片隅にあっても良かろう。
深沢キャンパスの日本館や日本庭園にも足を運びやすくなればと思う。日本の庭園学を記した世界最古の写本『作庭記』も影印・翻字・現代語訳して、庭園学の源流をことばのみならず其処に広がる自然樹木や岩石そして、水の流れなどについて多くの方がたに知ってもらえればと編んだ。図書館にも収めてあるから、心の安らぎ、心の和みとして、是非一読なさっていただければと思う。
嘗て訪った砂漠の国に緑園地を成し遂げたイスラエル国では、「キブツ」が重要視され、太陽の陽射しが摂氏四十度を超えるところでも、樹下に入れば三十五度以下になり、涼しき風が心地よく感ぜられて、ゆっくり讀書も、昼の語らいもできよう。
今は、樹々以上に人工パラソルが手軽で心地よいのだろうが、戸外でのあおぞら学習をもっと愉しんでもらいたい。草花がもたらす安らぎは各別な感があり、まさに「そよ風と私」の樂曲が心の憩いとなって流れて氣そうな感にもなろう。

あぜ道を歩き行く足暫し止め小石まじりの紫花に添わん

孰れも、大学の色「むらさき」に聯関する菫、藤、燕子花、今は何処に咲くのやら

《補助資料》
①足立美術館庭園 https://www.adachi-museum.or.jp/https://youtu.be/6fvsPjYBHXI
②足利フラワーパーク https://www.ashikaga.co.jp/fujinohana_special2022/jp/index.html
③亀井戸天神「藤まつり」 http://kameidotenjin.or.jp/gallery/fuji/
④『作庭記』日本庭園学の源流『作庭記』における日本語研究 影印対照翻刻・現代語訳・語の注解萩原義雄著

平安時代の寝殿作庭園に関する意匠・技法を理論的に論じた日本最古の庭園書である。当代の禁忌に関する記載も豊富で、日本の歴史や文化を知るための恰好の史料でもある。また、和漢混淆文による本文は、当時の辞書に記載のみられない特殊な用語含め豊富な語彙数をもち、日本言語文化研究においても欠かせない資料である。
本書は、谷村家所蔵『作庭記』上巻・下巻二軸(昭和十三年貴重図書複製会の影印複製本)の本文を影印し、それに見合う翻刻と詳細な現代語訳・注釈を付したものである。本文の表記・仮名遣い・語彙の詳細な分析を行った論考も収録。
③「そよ風と私」 https://www.youtube.com/watch?v=J_9-t7AzGtI
「その風と私はため息と」ともに言う、もうあなたは愛してないと、二人の愛のうた、今は悲しい調べ」と歌うこの曲は、キューバの作曲家エルネスト・レクオーナのピアノ組曲「アンダルシア」からとられたもので、一九四〇年アル・スティルマンの英語詩によってポピュラーシーンに生まれ変わりました。

写真は、亀井戸天神にて筆者撮影の藤棚と藤の花

写真は、亀井戸天神にて筆者撮影の藤棚と藤の花