夏越の祓の時季を今年も迎えようとしている。自分のなかでナニがどう変化してきているのかをふとふりゆく瞬間をことの節目に感じられるときともなっていることを感じるから不思議なトキともなっている。そこには「なごみ」とか、「なつの名をこし」といったことばの意味合いを含んでいるからとも無意識の感覚で見定めて見てるからだろうか。
室町時代の古辞書『下學集』〔一四四四(文安元)年成〕に、
○名越之祓(ナコシノハライ) 六月尽也 夏秋交代(コウ[ タイ] )ノ之時候ナリ也 而モ夏ハ火(ヒ)秋ハ金(カネ)火ト与トレ金相剋([ サウ] コク)ス 故ニ越テ二夏ノ之名ヲ一攘(ハラウ)二相剋ノ之災ヲ一 故ニ云二名越ノ之祓ト一也〔時節門二十九4〕
とあって、標記語「名越」と表記する。夏と秋とが交代する時候と云う。夏は火、秋は金で、火と金とが相剋=互いに勝とうする、そのうえで夏の名を越えて相剋の災いを祓うという。これは続く文明本(=広本)『節用集』にも継承されている。易林本も「名越之祓(ナゴシノハラヒ) 六月晦日」と語注記を簡潔にして継承している。これを惠空編『節用大全』になると、さらに詳細な語注記で、
名越之祓(なごしのはらひ) 定家卿曰ク六月祓明月之由人疑レ之古人六月之比必出テ二河原ニ臨ムレ祓又納凉及絲竹ノ之遊及ヒ詩歌之興恒例 也不レ限二晦月ニ一是ヲ称ス二皆月祓ト一公事根源ニ云大祓ハ六月晦日 也〔四一七3・4〕
と収載している。
そして、江戸時代の『書言字考節用集』にも、
名越之祓(ナゴシノハラヒ) 六月ノ晦者夏秋代謝之日ヲ而火ト金相剋ス 故修二禊事ヲ一所下以越二夏之名ヲ一攘(ハラウ)中相剋災ヲ上故ニ又此ノ月有レ閏則从(シタカイ)レ卯閏卯之義見東鑑〔第三冊・神祇門一四1〕
和儺(ナゴシ)荒和(同)或作二夏越一〔第三冊・神祇門一四2〕
とあって、見出し語漢字は、「名越」であり、語注記も拠り所は継承記載となっていて、改めて『吾妻鑑』から増補注記している。
これを今、現代人の私たちはどう見てきたのだろうか。例えば、大観本謡曲『水無月祓』〔一四三五(永享七)年頃〕には、「今日は夏越の輪を越えて参り給へや」と「夏越」の表記で記載されている。だが、古辞書では『書言字考節用集』を俟たねばその語表記は見えない。
愈々、夏本番を迎えようとしている。こまめな水分補給と朝昼晩の三食の食事、そして、熟睡を心がけて欲しい。己の心身を調え、學問の楽しみを存分に満喫することを期待する。
《補助資料》
な‐ごし【夏越・名越】〔名〕(和(なご)しの意で、邪神をはらいなごむ意〔『八雲御抄』卷三〕とも、あるいは「名越し」で夏の名を越して相克の災を攘(はら)う意〔『下学集』〕ともいう)「なごし(夏越)の祓え」の略。《季・夏》*忠見集〔九六〇(天徳四)頃〕「みな月のなこしはらふるかみのごと水の心はなきやしぬらむ」*大観本謡曲・水無月祓〔一四三五(永享七)頃〕「今日は夏越の輪を越えて参り給へや」*俳諧・俳懺悔〔一七九〇(寛政二)〕「夕かぜや夏越しの神子のうす化粧」*諸国風俗問状答〔一九C前〕肥後国天草郡風俗問状答・六月・六二「晦日祓なごしとて、海河におよぐ也」【方言】(1)川祭。《なごし》熊本県天草郡919(2)夏祭。《なごせ》香川県大川郡829 【発音】ナゴシ〈標ア〉[0]〈ア史〉鎌倉●●○【辞書】書言・ヘボン・言海【表記】【夏越】書言・ヘボン・言海【和儺・荒和】書言