萩原 義雄 識

節分、立春と立て続けに暦が捲られていく。暦もさることながら陽射しも次第次第に光りの力が強く長くなってきている。そして、日本各地では入学試験の期間を迎えんとしている。
このときに吾人は何をしてみるのか、ひたすら一つの物事に熱中したり、集中できることが許される時間となれば、これは神さまが与え賜うた誰にも何も邪魔されない至福なときといえよう。では、今流行の「おに」と「かみ」について考えてみたいと思う。吾人のこゝろがここにいると仮定していただきたい。「おに」と「かみ」が複合化したとき、「おにがみ【鬼神】」と云う。これを逆に和語で「かみおに【神鬼】」と複合して国語辞書の見出し語に用いないのは何故か?。字音「シンキ【神鬼】」は、本邦文學資料にも使われている。因みに仏教語では「ジンキ」と第一拍を濁って表記する。そこで、「おにがみ」に戻って、漢語「鬼神」の和語読みとしていて、「神鬼」も「鬼神」も同じ意味かとみておくと、「神鬼」は「神と鬼」の意。「鬼神」は「目に見えない精霊。荒々しく恐ろしい神。」「(1)(「鬼」は死者の霊魂、「神」は天地の神霊の意)天地万物の霊魂。また、神々。(2)仏語。超人間的な威力や能力をもったもの。仏法護持の、梵天、帝釈などの天や龍王、および夜叉、乾闥婆(けんだつば)、阿修羅、迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、摩睺羅伽(まごらか)の八部などを善鬼神、羅刹などを悪鬼神とする。(3)変化(へんげ)。鬼。恐ろしい神。」と意味づけが全く同じ意味とは云えないことに氣づかされる。

では、吾人達、日本人は「おに」をどう位置づけてきたのか、容易でないことだと思うが、些やかながらまとめてみると、『日国』に、「【語源説】(1)「オニ」は古語ではなく、古くは、神でも人でもない怪しいものを「モノ」といい、これに適合する漢字はなかった。「モノ」は常には人目に見えず隠れているということから、「オン(隠)」の字音から転じた語〔和名抄〕」であり、人の目には映らない「魂(たましい)」として、「おに」と「かみ」とは棲み分けされてきた。小松和彦(元国際日本文化研究センター所長)さんが毎日小学生新聞2020年10月6日でこう説明する。「神」は、「家(神社)を用意して住んでもらい、食べ物を供えます。一年に一回、歌や踊りをお供えするお祭りをします。それは魂に静かにしていてもらうためです」。次に鬼だが、「魂は、昔は鬼と呼ばれました。百鬼夜行という絵には、さまざまな姿の鬼が夜中に行列で歩く様子が描かれています。たくさんの種類という意味で百という言葉が使われました。呼び方は鬼から化け物、そして妖怪へと変わってきました。妖怪のなかで、頭に角があって体がたくましく、虎の皮のふんどしをした姿のものだけが鬼と呼ばれるようになりました。」と図絵でその姿体を人の目で捉えられるようになってきたことが転機となっている。一端、人の目で見定められると、「地獄の獄卒や夜叉、陰陽道の悪鬼などの影響を受けて多様な広がり」として、日常生活の身近な場面に登場するようにもなり、ことばでも「とても、やばいくらい」の強調語表現に「鬼強い」「鬼速い」「鬼美味い」「鬼可愛い」とプラス化してきている。これに対し、「神対応」「神技」「神ゲーム」の語もこれに対等し、優位を爭う語であることも共通することから未だ妙趣な両語と云うところでもある。ただし、「邪鬼」を祓うための、「豆」や「柊」「鰯の頭」などで退治する=病気をなおすと云うことも努めていく気構えを忘れてはなるまい。
 
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
しん-き【神鬼】〔名〕神と鬼。天地の神霊や死者の霊魂。また、人間を超えた威力をもつもの。
*菅家後集〔九〇三(延喜三)頃〕哭奥州藤使君「君瞰我凶慝、撃我如神鬼」*正法眼蔵〔一二三一(寛喜三)~五三〕行持・下「神鬼ともに嚮慕す」*俳諧・本朝文選〔一七〇六(宝永三)〕六・箴類・聴箴〈許六〉「夫楽は天地を動かし、神鬼をなかしむるもの也」*随筆・耳囊〔一七八四(天明四)~一八一四(文化一一)〕五・疱瘡神といふ偽談の事「児女子の聞く所には神鬼あるに均し」*夢醒真論〔一八六九(明治二)〕〈貞方良助〉「世の盛衰治乱より神鬼の事迄も此一天主の指揮に洩れるといふ事なし」【発音】〈標ア〉[シ]
『仏教語大辞典』
じん-き【神鬼】神と鬼。天地の神霊や死者の霊魂。人間の能力を越えた威力をもつもの。*沙弥十戒威儀経疏三「護持錫杖常須心着。着地違教犯於小罪。打使声驚動神鬼。宜謹慎。勿使声也」
小学館『日本国語大辞典』第二版
おに-がみ【鬼神】〔名〕(1)(「鬼神(きしん)」の訓読か)目に見えない精霊。荒々しく恐ろしい神。*古今和歌集〔九〇五(延喜五)~九一四(延喜一四)〕仮名序「めに見えぬ鬼神をもあはれとおもはせ、をとこ女のなかをもやはらげ、たけきもののふの心をもなぐさむるは哥(うた)なり」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)~一四頃〕帚木「いとやはらかに宣ひて、おに神もあらだつまじきけはひなれば」*中華若木詩抄〔一五二〇(永正一七)頃〕中「昨日まで、鬼がみとをそれられし英雄も」(2)借金を取り立てに来る者。債鬼。*雑俳・柳多留‐三2九〔一八〇七(文化四)〕「目に見へる鬼かみの来る大晦日」【発音】オニガミ〈音史〉古くは「おにかみ」か。〈標ア〉[ニ][0]〈ア史〉江戸●●○○〈京ア〉[0]【辞書】言海【表記】
【鬼神】言海
き-じん【鬼神】〔名〕(「きしん」とも)(1)(「鬼」は死者の霊魂、「神」は天地の神霊の意)天地万物の霊魂。また、神々。*続日本紀-神亀四年〔七二七(神亀四)〕二月甲子「時政違乖。民情愁怨。天地告譴。鬼神見異」*文華秀麗集〔八一八(弘仁九)〕中・和澄上人臥病述懐之作〈巨勢識人〉「猿鳥狎梵宇、鬼神護法筵」*古今和歌集〔九〇五(延喜五)~九一四(延喜一四)〕真名序「動天地鬼神」*日葡辞書〔一六〇三(慶長八)~〇四〕「Qixin(キシン)〈訳〉シナ人たちが考えるが如き、カミとなった死者の魂。同語、Qixin(キシン)。ヲニ、カミ〈訳〉悪魔とカミ」*集義和書〔一六七六(延宝四)頃〕一五「理気ははなれざれども言にのこす所あり、ただ道といふ時はのこすことなし。理気一体の名也。〈略〉其小に付ては隠微といひ、其妙用に付ては鬼神といふ」*読本・椿説弓張月〔一八〇七(文化四)~一一〕後・二五回「輪廻応報の談、ゆゑなきにあらず、鬼人(キジン)豈人に私せんや」*礼記-楽記「明則有礼楽、幽則有鬼神」(2)仏語。超人間的な威力や能力をもったもの。仏法護持の、梵天、帝釈などの天や龍王、および夜叉、乾闥婆(けんだつば)、阿修羅、迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、摩睺羅伽(まごらか)の八部などを善鬼神、羅刹などを悪鬼神とする。*法華義疏〔七C前〕一・序品「緊那羅。乾闥波。即是鬼神。皆為帝釈楽神」*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕四・三「我諸の鬼神并に夜叉神等を召して」*三帖和讚〔一二四八(宝治二)~六〇頃〕浄土「天神地祇はことごとく、善鬼神となづけたり」*易経-乾卦「与四時其序、与鬼神其吉凶」(3)変化(へんげ)。鬼。恐ろしい神。*霊異記〔八一〇(弘仁元)~八二四(天長元)〕上・二八「鬼神を駈(おひ)使ひ、得ること自在なり」*観智院本三宝絵〔九八四(永観二)〕中「行者、諸の鬼神をめしつかひて、水をくませ薪をとらしむ」*謡曲・羅生門〔一五一六(永正一三)頃〕「丹州大江山の鬼神を従へしよりこのかた」*日葡辞書〔一六〇三(慶長八)~〇四〕「Qijin(キジン)。ヲニ、カミ〈訳〉悪魔」*浄瑠璃・宇治の姫切〔一六五八(万治元)〕初「又らいくゎうのかうけんに、つな、きん時、さだみつ、すへ竹とて、天下に四人のまれもの、是を四天わうとかうし、よの人ただ、きぢんのごとくおそれける」*黄表紙・大悲千祿本〔一七八五(天明五)〕「そのころ勢州鈴鹿山にきじんすみて、国土の民をなやましければ」*雑俳・柳多留-五五〔一八一一(文化八)〕「矢より後光がまぼしいと鬼神逃」*鶡冠子-世賢「已成必治、鬼神避之」【補注】『日葡辞書』では、漢音読みの「キシン」と呉音読みの「キジン」とでは意味が異なっているとする。すなわち、「キシン」は神になった死者の魂をいい、神と悪魔をいうのに対して、「キジン」は悪魔だけを指すという。【発音】〈音史〉鎌倉頃は「きしん」、室町から近世にかけては「きしん」「きじん」の両様だが、次第に「きじん」が多数形になる。〈標ア〉[キ][0]〈京ア〉[キ]【辞書】文明・日葡・書言・言海【表記】【鬼神】文明・書言・言海おに【鬼】【一】〔名〕(1)(「隠(おん)」が変化したもので、隠れて人の目に見えないものの意という)死者の霊魂。精霊。*十巻本和名類聚抄〔九三四(承平四)頃〕一「人神周易云人神曰鬼〈居偉反和名於邇、或説云於邇者隠音之訛也。鬼物隠而不欲顕形故以称也〉」*観智院本類聚名義抄〔一二四一(仁治二)〕「神カミオニタマシヒ」(2)人にたたりをすると信じられていた無形の幽魂など。もののけ。幽鬼。*日本書紀〔七二〇(養老四)〕神代上(水戸本訓)「此れ桃を用て鬼(ニ)を避(ふせ)ぐ縁(ことのもと)なり」*日本書紀〔七二〇(養老四)〕欽明五年一二月(北野本訓)「彼の嶋の人の言(こと)に、人に非ず、とまうす。亦の言(こと)に鬼魅(オニ)なりと言して敢(あ)へて近(ちかつ)けず。〈略〉人有りて占へて云はく、是の邑人(さとひと)、必ず魃鬼(オニ)なりと為」(3)想像上の怪物。仏教の羅刹(らせつ)と混同され、餓鬼、地獄の青鬼、赤鬼などになり、また、美男、美女となって人間世界に現われたりする。また、陰陽道(おんようどう)の影響で、人間の姿をとり、口は耳まで裂け、鋭い牙(きば)をもち、頭に牛の角があり、裸に虎の皮の褌をしめ、怪力をもち、性質が荒々しいものとされた。夜叉(やしゃ)。羅刹(らせつ)。*竹取物語〔九C末~一〇C初〕「ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなる物出来て殺さんとしき」*伊勢物語〔一〇C前〕五八「葎(むぐら)生ひて荒れたる宿のうれたきはかりにもおにのすだくなりけり」*古今著聞集〔一二五四(建長六)〕一一・五九九「鬼は物いふことなし。其かたち身は八九尺ばかりにて、髪は夜叉のごとし」*蔭凉軒日録-長享二年〔一四八八(長享二)〕二月一三日「万選者為五山長老。三十年後迄在寺。故愚能見之。其色太黒其身太長。其面醜。所謂鬼云者也」*咄本・くだ巻〔一七七七(安永六)〕鳶の者「鐘を明ると、女の面(つら)が鬼(オニ)さ」(4)民間の伝承では、巨人信仰と結びついたり、先住民の一部や社会の落伍者およびその子孫としての山男と考えられ、見なれない異人をさす場合がある。また、山の精霊や耕作を害し、疫病をもたらし人間を苦しめる悪霊をもさす場合がある。(5)修験道者などが奥地の山間部に土着した無名の者、または山窩(さんか)の類をいう。*紀州室郡北山村検地帳‐文祿四年〔一五九五(文禄四)〕「一下畑壱畝拾弐歩鬼〈略〉一下田弐拾六歩鬼」(6)(比喩的に用いて)鬼のような性質をもっている人。また、鬼の姿と類似点のある人。(イ)荒々しくおそるべき人。*浄瑠璃・義経千本桜〔一七四七(延享四)〕四「鬼と名乗るは違はぬ悪者(わるもの)、梅本の鬼佐渡坊」(ロ)物事に精魂を傾ける人。「仕事の鬼」*猟銃〔一九四九(昭和二四)〕〈井上靖〉「あの少年は褐色の雌馬の上できれいさっぱりと私の事は忘れて、ただもうスピードの鬼になって仕舞ふのです」*道〔一九六二(昭和三七)〕〈庄野潤三〉七「少しでも無駄な出費をなくして、貯蓄のオニとなろう」(ハ)無慈悲な人。むごい人。*浄瑠璃・平家女護島〔一七一九(享保四)〕二「鬼界が嶋に鬼はなく、鬼は都に有けるぞや」*十三夜〔一八九五(明治二八)〕〈樋口一葉〉「私は鬼(オニ)に成って出て参りました」(ニ)借金取り。債鬼。*洒落本・十界和尚話〔一七九八(寛政一〇)〕二「いつでもしゃく銭の鬼(オニ)にせめらるるなり」*雑俳・柳多留‐三二〔一八〇五(文化二)〕「しゃうきでは鬼にあはれぬ大晦日」*春迺屋漫筆〔一八九一(明治二四)〕〈坪内逍遙〉をかし・二六「彼れ士爵の位ありながら負債(おひめ)山の如く日々鬼(オニ)の出入いとしげかりき」(ホ)(常に棒を持って立っていたところから)江戸、日本橋の橋番。*雑俳・柳多留‐三二〔一八〇五(文化二)〕「江戸のまん中に人鬼立てゐる」(ヘ)(むりやりに客を引いたところから)江戸、新吉原東河岸の安女郎。*雑俳・柳多留‐二一〔一七八六(天明六)〕「おにのうでとりにともべ屋からぬける」(7)(男色の相手の若衆をいう「おにやけ」の略)男娼、陰間(かげま)の異称。*雑俳・川傍柳〔一七八〇(安永九)~八三〕一「十八ぐらいの鬼では後家たらず」*雑俳・柳多留拾遺〔一八〇一(享和元)〕巻九「真中に一本生えた鬼もあり」(8)貴人の飲食物の毒見役。おになめ。*鎌倉殿中以下年中行事〔一四五四(享徳三)か〕正月五日「御台をば手長面道まで持てまゐり、役人にあづけ申す時持参あり。如レ常。殿中おにを被レ申」*咄本・狂歌咄〔一六七二(寛文一二)〕二「鬼(オニ)といふ事は、よき人の御前にありて、朝夕の食物もりたるを一口づつ喰て、心みする者をいふ。これ毒の心見也」*浄瑠璃・酒呑童子枕言葉〔一七一〇(宝永七)頃〕四「鬼一口のどくの酒、是よりどくのこころみを鬼とは名付そめつらん」(9)「おにごっこ」や「かくれんぼ」などで人をつかまえたり、見つけたりする役。また、そうした遊び。*歌舞伎・法懸松成田利剣〔一八二三(文政六)〕大詰「鬼や鬼や、手の鳴る方へ手の鳴る方へ」*尋常小学読本(明治三六年)〔一九〇三(明治三六)〕〈文部省〉七・一「みんながいっしょに、おにごとあそび。おにをきめるよ。『じゃん、けん、ぽん』」*不在地主〔一九二九(昭和四)〕〈小林多喜二〉二「子供達は『鬼』をやって、走り廻ってゐた」(10)紋所の名。かたおに、めんおになど。(11)カルタばくちの一種「きんご」に用いる特殊な札。(12)盗人仲間の隠語。(イ)巡査をいう。〔隠語輯覧{一九一五(大正四)}〕(ロ)勤勉な官吏をいう。〔日本隠語集{一八九二(明治二五)}〕(ハ)焼酎をいう。〔隠語全集{一九五二(昭和二七)}〕(ニ)悪党をいう。〔日本隠語集{一八九二(明治二五)}〕(ホ)毛布をいう。〔日本隠語集{一八九二(明治二五)}〕【二】〔接頭〕他の名詞の上に付いて、勇猛、無慈悲、異形、巨大などの意を表わす。「鬼男」「鬼将軍」など。*室町殿日記〔一六〇二(慶長七)頃〕八「信長家中にても鬼柴田と天下の児童迄よびけるは、又無双の勇子なるがゆへなり」*開成新聞此花新書‐二号〔一八六八(明治元)〕閏四月「人この隊をよんで鬼隊とおそれ、その屯所の門を羅生門といふとぞ」*人間失格〔一九四八(昭和二三)〕〈太宰治〉二「ネオンサインの赤い光を受けて、堀木の顔は、鬼刑事の如く威厳ありげに見えました」【語誌】(1) 日本の「鬼」は「モノ」、「シコ」などと訓まれて、目にみえない悪しき霊や「モノノケ」を意味していた。死者を意味する中国の「鬼(き)」とは本来異なる概念であったが、かなり早い時期から習合、混同され、「おに」という語の意味する範囲が拡大したと思われる。『今昔物語集』など中世の説話集によると、中国の思想、仏教で説かれる地獄の獄卒や夜叉、陰陽道の悪鬼などの影響を受けて多様な広がりを有していた。(2)元来は姿形の見えない存在とされるが、室町時代には、虎皮の褌に筋骨たくましい体、頭の角、といった型がつくられ、お伽草子などを通じて流布されていった。近世、近代になると、粗暴さや凶悪さを表わすための比喩として用いられることが多くなる。【方言】(1)化け物。《おん》高知県860(2)仁王尊像。《うん》沖縄県石垣島996(3)鬼ごっこ。《おに》山形県139 香川県三豊郡829 高知県864 熊本県919(4)虫、やんま(蜻蜓)。《おに》三重県宇治山田市591(5)虫、あぶらぜみ(油蝉)。《おに》三重県宇治山田市591【語源説】(1)「オニ」は古語ではなく、古くは、神でも人でもない怪しいものを「モノ」といい、これに適合する漢字はなかった。「モノ」は常には人目に見えず隠れているということから、「オン(隠)」の字音を用いるようになり、「オニ」と転じた〔東亜古俗考=藤原相之助〕。(2)「隠」の字音から転じた語〔和名抄〕。「陰」の字音から転じた語か〔日本釈名・東雅〕。(3)「オニ」は漢字の転音ではなく、日本古代の語で、常世神の信仰が変化して、恐怖の方面のみ考えられるようになったもの〔信太妻の話=折口信夫〕。(4)「オ」は大きいの意。「ニ」は神事に関係するものを示す語。「オニ」は神ではなく、神を擁護するもの。巨大な精霊、山からくる不思議な巨人をいい、「オホビト(大人)」のこと〔日本芸能史ノート=折口信夫〕。(5)「アニ(兄)」の転訛。敬うことから生じたもの〔神代史の新研究=白鳥庫吉〕。(6)ミクロネシア語の「アニ(霊魂)」と同源語か〔日本古語大辞典=松岡静雄〕。(7)「オホニクキ(大醜)」の義〔名言通〕。(8)「オ」は「オソロ」の約、「ニ」は「ナリ(形)」の約〔和訓集説〕。(9)「オゾナリ」の反〔名語記〕。(10)「ヲガミ(男神)」を「ニクム」という義か〔和句解〕。(【一】(8)について)(1)「オニクヒ(鬼食)」、「オニノミ(鬼飲)」の略〔大言海〕。(2)初穂はまず鬼神に手向けるが、鬼神に代ってその初味をなめるところから〔松屋筆記〕。【発音】〈なまり〉ウニ〔岩手・茨城・石川〕オニヤ〔山形〕オン〔富山県・熊本分布相・鹿児島方言〕【一】は〈標ア〉[ニ]〈ア史〉平安・鎌倉○○室町来●○〈京ア〉[オ]【辞書】和名・色葉・名義・和玉・文明・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【鬼】和名・色葉・名義・和玉・文明・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【魔】色葉・名義・和玉【人神】和名・色葉【畿】色葉・名義【神・魎・魍】名義【鬽】書言

大徳寺眞珠庵蔵「百鬼夜行図絵」
大徳寺眞珠庵蔵「百鬼夜行図絵」