萩原 義雄 記

五十音圖サ行「さしすせそ」の「さ」の字、横に走り読みすれば、語頭十行「あかたなはまやらわ」の三番目に位置します。春の象徴樹木花「さくら」も「さ」で、「無線局運用規則第十四条、別表第五号、通話表」にも「さくらのさ」と云うのですが、この物言いについて意外と知らない世界となっています。一音一語にしたとき、「さ」+「くら」と和語解析されます。

144_b小学館『日国』第二版の【語源】(13)説には、「サ」は「サガミ(田神)」の「サ」で、穀霊の意。「クラ」は神の憑りつく所の意の「クラ(座)」で、「サクラ」は穀霊の憑りつく神座の意。桜に限らなかった〔桜井満著『万葉集東歌研究』〕で説かれていて、「サガミ(田神)」の「サ」とされました。春になると、この神様が「さと【里】」に降りてきます。「さくら」が咲くとは、「さ」の神様が降臨した證しとなります。そこで、農耕を粮とする人々は桜樹の元に酒(御、さ・け(き)=神さま飲み物)お供えし、里にお越しくださった感謝の念を捧げ、田を以て米作りするはじめの祈りとしました。素朴でささやかな神事のあと、集うたお供えした酒や食物で宴会をしたのです。その象徴樹木が「さくら」木でした。これが「お花見」の始まりなのです。

『日本書紀』〔七二〇年〕允恭八年二月・歌謡に、「花妙(ぐは)し 佐区羅(サクラ)の愛(め)で こと愛でば 早くは愛でず 我が愛づる子ら」と詠われています。

「さ」の上接する和語には「さ・かい(神さまと人の居る境界)」「さ・け(神さまの飲み物)」「さ・と(神さまがお越しくださる土地)」「さ・とる(神さまを慮る)」「さ・ばく(神さまが見定める)」などといった周圏の語が見えてきます。

この原風景を今暮らす「場=桜樹の下」からも求めておくことも大切ではないでようか。きっと、「さくら」と神さまが、「さきはひの厚き輩(ともがら)」を誘ってくる時節となりますようにと願うばかりですね。

144_aまとめに、「SA」の音は「Xa」ではなく、『日葡辞書』を見ると、「Sacura.サクラ(桜)桜の木、*原文は Cerei-jeira.cerejerai,cereigeira の形でも現れる。さくらんぼ(花桃)のなる桜の木で、西洋ミザクラの木を意味するが、わが国の〝桜〟にあてて用いている。羅葡日のCerasus の条にも、葡語 Cerreijera と日本語の Sacura と対訳として示している。」〔邦訳五四七〕r 〕としています。ことばとして実際に発音してみると、幼児や子どもが発音しにくい、大人の音「SA」は、「おさかな=おちゃかな」「さかみち=ちゃかみち」となってしまっています。「さ」をもっと知って、心を通わせ使ってみたいものです。「さらば」「さようなら」「さすが」「さてさて」と、春を感じながら口ずさむとしてみませんか。