学習(小6)漢字「若」の字を音で読むとき「老若男女(ろうにゃくなんにょ)」で字音「ニヤク」と訓む。また社会世相を考察する語では「若年層(じゃくねんそう)」と字音「ジヤク」と訓む。仏経語「般若(ハンニヤ)」で「ニヤ」とも言う。「ニヤ」「ニヤク」「ジヤク」と三音の相異は呉音と漢音とに起因している。この種のことばは身近なところで「行」「経」「京」字と日本語には多くある。そして、和訓では「わかい」そして、「もし」と読む。
龍谷大学図書館蔵『字鏡集』という単漢字収載の古字書で此字を見ていくと、

龍谷大学図書館蔵『字鏡集』音だけでも「サ、シヤ、せキ、シャク/ミヤク、ニヤ」と六種が見え、訓となれば「ヨシ、イタル、ヲトル、モシ、ミタル、ナムチ、/カキツハタ、ヒク、タスク、ニタリ、コトシウ/ミタル、カクノゴトシ、シク/ワカシ、シタカフ、コトシク」一五種もあることが明らかとなる。

この内、現在使用する読みが音訓併せてせいぜい四種ということになろう。植物名「カキツハ【杜若】」、漢文訓読で用いた「カクノコトシ【若斯】」を加味しても少ない。

 

 

 

読書の秋となれば…

「ワカシ」は、石坂洋次郎の青春小説『若い人』は、今の若者は夢中になって読むことはなかろうが、この時代ベストセラー小説であった。海外文学翻訳小説にはゲーテの作『若きウェルテルの悩み』と時節柄、読書の秋となれば是非読み返して見たくなる作品の代表だろう。

そして「モシ」は、例えば仮にと言ったニュアンスで「もしもピアノが弾けたなら」とか、「もし、宇宙旅行が出来たなら… 」「もし、月の裏側を観ることがあれば」「もし、深海の底を観たら」と夢のある想像力が逞しく働く世界でもある。現実と夢想像の世界とは近未来にあってはより近づきつつあるこの頃でもある。遠い異国に住まいする友人とも時差はあってもネットを介して繋がる。東京で朝目覚め、京都で催しの会合を済ませ、再び東京のオフィスで書類を作成し、もう一度京都での夜の集いに参加するといった迅速な行動がとれるほど乗り物もスピード化し、時間短縮してきた。昔「モーレツ【猛烈】」と言ったことばが流行したが、時はこの「もし」という叶えられそうで叶えられなかった意味表現をどこまで進化させていくであろう。人の心身に関わるものごとに拘っていくとき、「若」ことばの語呂合わせ「なむぢをとるモよしみたるハわかしたすくモかくのことしひくしくことしくかきつはたニしたかふ」と読んでおくとしよう。締め括りの諺として「子を知ること父には若く(しく)は莫し」〔『管子』〕と言うのは如何……。

《補助資料》
白川静『字通』に象形文字「巫女が両手をあげて舞い、神託を受けようとしてエクスタシーの状態にあることを示す。艸はふりかざしている両手の形。口は丹(さい)、祝禱を収める器」と言う。

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現代小説書きことばの「もしも」表現