萩原 義雄 記

鴈南(かりみんなミ)に羽(は)をつらぬ。冬(ふゆ)の吟(ぎん)にうつり行ハ嵐凩(あらしこがら)し空寒(そらさむ)ミ、山辺ハ雪の白妙(たへ)に高炉峰(かうろほう)もかくやあらん。摧敗零落(さいはいれいらく)の時をかんじ、樹木(じゆぼく)うへきしぼたれて色をうしなひ、千草(せんさう)消(きへ)てかたちなく、盛者必衰(じやうしやひつすい)のことハり、生死無常(しやうじむじやう)を一時にあらハし給ひしにぞ。

と書き出すにふさわしき季節を迎えている。

十一月に例年のごとく西山宗因の句にいう「阿蘭陀(おらんだ)の文字か横たふ旅の雁」の群れを多摩川に見、続いて都心でも雪が舞い、翌朝には山間部に斑雪の白さが映えていた。当に冬
の到来を告げる兆しでもあった。

狩野探幽「平沙落雁」

狩野探幽「平沙落雁」

例年よりぐっと早いインフルエンザが発症しだしていると云う。その兆しも人がネット検索する薬名から予知できたりするという。以前は予防法として、手洗い含嗽(うがい)が叫ばれた
が、この頃は手洗いは呼びかけられはするものの、「含嗽(うがい)」は効果が無いということでうたわれなくなっているともいう。公共の場・交通機関の車内では咳嚔(せきくしやみ)も禁物であって、鼻と口を守るマスクが重宝している。このマスクも皆々がしてしまうと会話が減少し、同じエレベーターを使う人たちでも互いに挨拶すら難しくなっていたりする。人が心地よく暮らしていくためには、一に家族との場、二に共に働く職場、三に最も大切とする繋がりの場として、すなわち老若男女、地位も身分も関わりなく集える場が必要とされ、互いに心通わせ語らう時間が何よりも必要だという。

欧州では、この十二月に「主の祈り」を皆して歌い合う場があったことを吾人は記憶する。その歌声は今もこゝろの記憶の底から響きだす。十二月に此の地にもたらされた一つの楽器から人々のこゝろの耳に何かが届けられることを願う。
 
《参考HP 資料》
⑴インフルエンザと「うがい」http://www.in-ava.com/keikoku.html
 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/index.html
 朝日新聞 http://www.asahi.com/articles/SDI201611253340.html
 
⑵ 大きめのマスクの眼の顔は貴方矢野蛍
 
⑶「主の祈り」〔Lord’s Prayer〕
 https://www.youtube.com/watch?v=yDcEG19w9mY
 https://www.youtube.com/watch?v=aEplqV0scyo
 
一六六二(寛文二)年版英国聖公会祈祷書
Our Father, which art in heaven,
hallowed be thy name;
thy kingdom come;
thy will be done,
in earth as it is in heaven.
Give us this day our daily bread.
And forgive us our trespasses,
as we forgive them that trespass against us.
And lead us not into temptation;
but deliver us from evil.
[For thine is the kingdom,
the power, and the glory,
for ever and ever.] Amen.